自由に思いを綴る場所

谷本有香のエッセイやコラムなど。

仕事や現代の社会、経済ビジネスのこと、日々の出来事など幅広く自由に綴っていきます。

パネル参加で思う(1)

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先日、金融セミナーにパネリストとして参加させて頂きました。
私以外の登壇者は、日銀元副総裁で日本経済研究センター理事長の岩田一政氏、同じく元日銀理事で現在トヨタファイナンシャルサービスの取締役副社長、平野英治氏、そして脳科学者の茂木健一郎氏。更に、聴講者は全て金融機関のエグゼクティブという、取材陣だったら最高の環境です。
そんな中、司会でもモデレーター役でもなく、いつもと違う自分の立ち位置に戸惑いを感じながらも、こんな機会は滅多にないので、むしろ日本の最先端で活躍されている方々にロスジェネの叫びを聞いて頂こうではないか!と開き直って参加してきました。

パネルディスカッションのテーマは「ガラパゴスからユーフォリアへ ~閉塞経済から好景気循環への処方箋~」。
中でやはり議論になったのは、日本に元気がない原因の一つとして、いかに日本がリスクテイクしていないかということ。
確かに日本も日本企業もそうかもしれませんが、リスクを取る方にインセンティブが働かない構造になっています。それは評価が減点法に基づいているからに他なりません。
私がこれまで、日本企業と外資系企業の二つの評価システムの中で働いてきて思うのは、同じことをやっている職場でもこうも人の意識が違うのか、ということです。その違いはつまるところ評価システムに行きつく訳で、リスクを伴うけれども、結果、企業に大きなメリットをもたらす何かを成し遂げた人に、それ相応の評価(それは金銭的評価も含む)が成されるのであれば、皆、我先にと失敗をも恐れずチャレンジしていきます。それは、文字通り社員それぞれが切磋琢磨していくことにもつながり、企業の活性化も促すわけです。
勿論、それは副次的に、社員同士の足の引っ張り合いや、偏った成果主義に陥る、集団主義から個人主義になってしまう、などという弊害も考えられるかもしれません。ただ、それは評価するシステムがきちんと機能さえしていれば、極端な副作用は防げるのではないかと思うのです。
そう考えると、そんなに簡単にはいかないかもしれませんが、これまでの評価システムさえ変えてしまえば、日本はリスクを取れるようになっていくのではないでしょうか。

また、茂木さんが前々からよくおっしゃっている事ですが、リスクを取れる環境にするために「セキュア・ベース」を構築する必要があると提言されていらっしゃいました。
このセキュア・ベースとは「安心して戻ってくる事が出来る場所」のことで、新しい何かに挑戦しようとする時に、不安に惑わされることなくリスクを負う事が出来るのは「セキュア・ベース」があるからという、心理学者のジョン・ボウルビィ氏が提唱したコンセプトです。
ボウルビィ氏は子供の養育行動として、家族や家庭が心理的な安全地帯となって、外の未知なる世界へ探索に出る事が出来る、という概念を打ち出したのですが、これは子供だけではなくて、現代の成人、もしくは社会システムにも当てはめて考える事が出来そうです。

しかし一方で、むしろ「退路を断つ」、すなわちセキュア・ベースが無い方が、人はいわゆる「火事場の馬鹿力」のようなものを発揮する事が出来るのではないかという考え方もあるかもしれません。
ただ、人は普通、日々の社会・企業生活においてそこまで追いつめられる状況になることは少ないのかもしれません。それを前提に考えれば、なるほど、安全地帯の存在がRisk Takeを促す事につながる第一歩となりそうです。
私は兎にも角にも、評価システムを変えて行く事が必要だと思います。

<追記>
セキュア・ベースのことを書かせて頂きましたが、ここでいうセキュア・ベースとは、茂木さんは「ナレッジ」や「スキル」、「エクスペリエンス」「ネットワーク」として語られていらっしゃいました。その上で、セキュア・ベースの再構築が必要だと。
問題は、これまで私含め、一般的にセキュア・ベースの認識として「企業」「組織」「家庭」「ベーシックインカム」といったものだけに安全地帯を求めていた事実で、そこを変えていく必要があるのかもしれません。

((余談))
後に驚かされた茂木さんのこと。
登壇中、私の横で手もとのPCで何か色々ご覧になったりしているな、と思っていたら、なんとツイッターもされていたのですね。(ツイッター「も」というのは、他にも色々されていたのを私は知っているから(笑)。家政婦は見た、の心境です)
当日の茂木さんのツイッターでは、私の事も「谷本有香さん、静かにきれいに怒っていて、いいなあ。」とツイートして下さっていて大感激!
天才は一度にいくつものことを並行して出来るのですね・・・。感服です。

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