自由に思いを綴る場所

谷本有香のエッセイやコラムなど。

仕事や現代の社会、経済ビジネスのこと、日々の出来事など幅広く自由に綴っていきます。

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最近とくに外国人観光客から声をかけられる(というより、道を尋ねられる)。
オフィスが東京駅や銀座に近く、観光客が立ち寄りやすい場所にいるということや、丁度、季節は秋で、観光にふさわしいシーズンになってきた事など様々な要因があるのだろう。
声をかけてきた方々を思い返せば、様々な国から日本に観光に来てくれている事が分かる。ここ1カ月くらいでは、米国人男性3人組、(全く何の言語も発さなかったので国籍不明だが、なんとなく服の感じから)韓国人と思われる中年夫婦、欧州圏のどこかから来たと思われるカップル、中国人観光客、、、と様々だ。

せっかく日本に来てくれているのだから、「日本はいい国だ」と思われたい!とついつい、いい人ぶって丁寧に対応してしまうのは私だけでもなかろう。確か、春ぐらいだったか、民放の某報道番組で、外国人が「日本の何がカッコイイ」と思うかというランキングを発表していたが、「食べ物」や「神社やお寺」などを抜いて、トップは「親切」だった。

旅先での親切は特に忘れがたい。初めて降り立つ地や、言語がわからない国では不安が付きまとうものだ。だからこそ、そんな心細い時に受けた現地の人からの親切は身にしみる。
そういう私も、旅先で受けた多くの親切は一つ一つ忘れられないよい思い出となっているが、中で特に強烈に印象的なものが一つある。

あれは、私がまだ英語が全く話せなかった頃。アメリカ東海岸に住む知人を訪ねて一人旅した時の事。帰りのシカゴでの乗り換えで、飛行機の中でtake offを待っていたのだが、時間が定刻を過ぎても全く動く気配がない。離陸予定時刻から1時間半ほど経った頃、機内アナウンスが入った。何を言っているのかよく聞き取れなかったのだが、どうやらこの機体は故障か何かで(その時、シカゴは物凄い大雪だった)離陸できないらしい。荷物を持って外に出るように指示され、チェックインカウンターのようなところに連れて行かれた。様子を見ていると、乗客員に何かチケットのようなものを渡している。今日フライトは中止なので、明日に延期するという事、そして、今日はホテルのチケットを渡すから、そこに泊まって欲しいという事のようだ。
私は完全に焦った。
こんな異国の言葉も分からないところで、果たして一人で一泊するなんて出来るのか?
しかも、地図を渡すから、この大雪の中、ホテルまで一人で歩いて行けという。
パニックになりながらも、知っている単語を並べて、カウンターの人にまずは日本語しゃべれる人を出してくれと頼む。担当者はそんな人はいないし、次の人がつかえているからどいてくれ、と邪険だ。
そんな時、一人のビジネスマンが他のカウンターから私に気付き、私が交渉していたカウンターの担当者に怒りの口調で、こんな英語もしゃべれない女の子(当時)を一人、危ないシカゴの街に放るのか?まず、あなたの会社の都合でフライトが中止になったのだから、その責任を取って、彼女を含んだ全ての乗客をあなたたちがホテルまで誘導しなさい。ミールクーポンを付けるのも当然だ(以上、英語が詳しく分からないために、想像も少し入っています)、というようなことをクレームして下さり、実際にその航空会社の人が我々を誘導する事になった上に、なんと次の日の朝に直接モーニングコールまでしてくれることになった。

ちなみに、そのビジネスマンは、私がホテルに向かう前、日本へこのフライト中止のことを言う必要もあろうと、コーリングカード(国際電話で使えるテレフォンカードみたいなもの)を差し出し、使い方を説明するから、家族に電話しなさい、という。当時、国際電話はまだかなり高い料金だったこともあり、本当にこのビジネスマンの数々の温かい親切に心から感謝したのを覚えている。

その後、荷物のピックアップやら移動やらで、ドタバタしていたので、きちんとした御礼も言えぬまま、そのビジネスマンの方とは離れてしまったのだが、今でも強烈にあの日の事を思い出す事が出来る。絶対にそんな日は来ることはないのだが、改めて御礼が言える時が来たらいいなとも思う。

来日している観光客にせよ、日本人で困っている人にせよ、ここまでのパニックではないにしろ、もしも私が少しでも役に立つ事が出来るのなら、あの日に私が受けた恩を少しでも社会に返せるのではないか、そんな気持ちでいる。

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